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亡国のイージス

著者
福井春敏

自衛隊最新鋭のイージス艦「いそかぜ」が突然反逆し、東京湾中心に陣取る・・・という概略の話をすると、最近ありがちなシミュレーション小説や漫画を連想してしまうが、むしろこの作品はアクションとして読むべきなのだろう。そして、シミュレーション・アクションどちらとしてみてもかなりの秀作に仕上がっている。

主人公が3人設定されているが、その中でも出色の存在が、イージスシステムのプロとして「いそかぜ」に搭乗する如月だ。プロローグで語られる彼の少年時代は、荒れ果てた家庭環境に鬱屈し、遂には父親殺しをしてしまう凶悪な人物として描かれている。しかし、本編登場時にはまるで別人のように冷静沈着な人間へと様変わりし、呼んでいるほうも「あれ?」と思わされてしまう。その辺の経緯は中盤過ぎまで明らかにされず、彼のとる謎めいた行動が何を意味するのか、がなかなか判明しない。ここの経緯が、ある意味どんでん返しに継ぐどんでん返しで、長編作品の中盤にありがちなだれた展開を締めこむことに成功している。

2人目の主人公、仙石はベテランのミサイル技師。彼が本来の主人公として設定されているのだろう。中盤から終盤にかけての大立ち回りは超人的だが、彼の存在ゆえに、この作品がただのシミュレーション小説ではなくアクション大作たらしめたところなのだろう。

最期に、いそかぜ艦長、宮津。彼が「いそかぜ」反逆事件の中心に位置しているのだが、事件の発生前後を通して、常に彼の心が揺れ動いているため、見ていて歯がゆい思いを感じさせられる。その辺は、反逆者のリーダーとしては珍しく、大義ではなく、個人的な理由により反逆を決意したが故のことなのかも知れない。そのためか、他の二人の主人公に比べると若干存在感は薄かった。がしかし、その難しい立場ゆえ、ラストシーンには目頭が熱くなった。

三人の主人公を設定し、サブとして日本公安エリートや北朝鮮スパイなども絡めて、さまざまな人物の思惑を組み込むことで、イージス艦の反乱という、一見荒唐無稽な事件にうまく深みを持たせていると思う。
少々、宮津の存在に不安定さがあったり、事件の背景となる政治的な側面に無理を感じることはあるにしても、実際反乱が始まってからの手に汗握る展開はさながらハリウッド映画のようで、実に見ごたえがあった。この辺の面白さは構成の妙によるものだろう。
ともすれば、複雑な設定だけで飽きさせてしまいそうな世界観をうまく消化し、怒涛のラストへつなげているこの作者の力量はなかなかのもので、今後出てくるだろう他の作品も楽しみにさせられる。