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| 冒険ものを書かせたら右に出るものはいない船戸与一の作。 この「かくも短き眠り」は、東欧革命後のルーマニアを舞台に、元日本人テロリストが、冷戦時代のボス「ビッグフォード」の影を追ううちに遭遇する事件を主軸に描いている。そこに横軸として絡むのが、ルーマニアにあってハンガリーと繋がりの深いトランシルバニア地方の独立問題と、かつてのチャウシェスク政権が残した負の遺産「ドラキュラの息子達」。 作者のハードボイルド調の硬派な語り口は健在で、序盤から多くの謎(そういえば主人公の日本人の名前すら明らかじゃなかった)が存在するにも関わらず、ぐいぐいと引き込まれる構成力はさすが、といったところ。「ビッグフォード」の今が明らかになるまでは、ほぼ文句のつけようのない出来だったと思う。 残念だとすれば、この物語の、特に主人公にとって最大の対存在となる「ビッグフォード」のキャラクターに少し甘さがあったところか。序盤からとにかく主人公が絶賛とでも言うべき評価を連発するので、読者としても、彼に対する期待がいやがうえにも高まるのだが、いざ登場してみると・・・。これは、後から考えてみると、それだけ事前に印象付けているから、実際に「ビッグフォード」が登場した時に主人公が感じる感情と読者が感じる感情がリンクする、ということなのだろう。しかし、その後のストーリー自体の展開の粗さとあわせて考えると、もうちょっとひねって欲しかったところ。 とはいえ、全体の構成と登場人物たちの因縁もうまく消化されており、満足度の高い作品であることに間違いはない。 |