| トップへ戻る |
| 「小説レビュー」インデックスへ戻る |
|
![]() |
|||||||
| タイトル買いだったけど、大成功の一作。 一言で言ってしまえば、11世紀のイングランドで大道芸人もどきの男に拾われた主人公ロブ・Jが、ふとしたきっかけで内科医を志し、当時、医学の最先端を走っていたペルシアの名医、イブン・シーナに弟子入りするため、一路東を目指す大河物語。 舞台は大きく分けて三つ。少年時代をすごしたイングランド、東への旅で踏破した欧州諸国、そして、ロブ・Jの目的の地ペルシアだ。驚嘆すべきは、その三つの舞台が非常に細やかに、まるでその時代を見てきたかのように詳細に描写されていることだ。 特に、物語後半の舞台となるペルシアの文化、風俗が極めて興味深い。先端医療が施される大学病院マリスタン、イスラム教と王政が微妙なバランスをとっている王宮政治、年に一度の大競走大会チャティル、どれをとっても当時の中世ペルシア社会という、普段なじみのない世界を身近に感じさせる存在感がある。 また、当時隆盛を誇っていたペルシアと、鬱蒼とするような重苦しい雰囲気の中世ヨーロッパとの対比も、とても印象的だ。 対比、ということで言えば、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の対比も面白かった。特に中盤以降、主人公のロブ・Jがイスラム社会に入り込むために偽装したユダヤ教徒については、中世において彼らがどういう位置づけにあったのか、がこれまた綿密に描かれており、これは非常に勉強になった。漠然としか持ち合わせていなかった「ユダヤ」というものについて、認識を新たにさせられたところがある。 こう書いてくると、まるで取材力というか、物語の舞台や背景ばかり目立ってしまっているかのようだが、ロブ・Jを取り巻く人間ドラマもこれまた波乱万丈だ。少年時代・「床屋さん」との修行時代、キャラバンの旅の仲間、そしてペルシア・マリスタンでの「四人の友」の出会いと別れ。大河物語と呼ぶにふさわしいストーリーを展開する。 一つ、問題を上げるとすれば、登場人物が極めて多く、舞台も次々に転換するため、固有名詞の数がべらぼうに多いことがある。特に序盤は次々に登場する人物名や地名を読み分けるのに難儀させられる。しかし、「床屋さん」との出会いによって、ストーリーの方向が定まると、後は一気に読ませる力があった。 総じて見ると、舞台・背景・歴史、そして人間ドラマ、多くの点で、非常に満足度の高い、良質の大河小説だと言えるだろう。 |