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沈まぬ太陽

著者
山崎豊子

 社会派の大御所、山崎豊子の最新作。日本最大の航空会社、国民航空(明らかに日航がモデルだな)を舞台に、特殊法人であるが故の腐敗した利権構造に正面から戦いを挑む男たちを描いている。

 全三部で構成されているが、印象からすれば御巣鷹山編>アフリカ編>会長室編といったところか。

 御巣鷹山編は、そのとおり、1985年に発生した日航123便をほぼ現実どおり描いている。この事故は、自分としても当時少なからず衝撃を受けた事件で、そのときの様子など非常に鮮明に覚えている。もう事故発生から15年以上たっているわけだが、こうして文庫一冊分をかけて事件発生から、調査報告書提出まで丁寧に追っていくと、その衝撃は未だに色褪せてはおらず、かなり読み応えのある内容になっている。ところどころ、非常に専門的な内容になったり、やや遺族側に肩入れしすぎと思える部分はあるが、厳然たる「事故」という事実の存在感の前には、それらの点も霞んでしまっていたな。

 御巣鷹山編は、どちらかというと事故をめぐる人々の群像劇になっており、特段の主人公がいないが、この御巣鷹山編を挟むように存在するアフリカ編と会長室編は、恩地元という航空会社の人間を主人公にしている。

 アフリカ編は、恩地が労働組合活動に精力的に取り組んだ結果、会社体制側からマークされ、左遷人事で海外を転々とする様を描いている。恩地の不遇には同情するものの、読んでるほうとしては、その清廉すぎる性格にはやや辟易する部分もある。実際、人事なんか担当してる人がこの本読んだら気分悪くなるところもあるのではないだろうか。
 ま、しかしその辺りは置いておくとして、恩地が左遷された先、パキスタン、イラン、ケニアでの仕事振りというのはなかなか興味深かった。その舞台となった時代は昭和三十年代と思われるが、当時の日本社会と海外発展途上国との関係が実に丁寧に描かれている。そして、恩地のように海外で奮闘した人々があったればこそ、現在の日本の国際的地位があるのだな、と妙に感慨深くなってしまった。

 上記2遍は、実に読み応えがあり、おそらく綿密にされたのであろう取材による事実を取り入れたことによる迫力というのは、なかなか他の作家には真似の出来ない境地に達していた。

 しかし、最後を飾る会長室編。これがどうもいただけなかった。
 御巣鷹山事故後、本社に帰ってきた恩地と、外部から会長に抜擢された国見、二人を中心に創設された会長室が、会社の腐敗構造と対決する奮闘ぶりを描いているのだが、どうにも恩地たちを「善」、会社の旧体制を「悪」とする構図が露骨過ぎて、うんざりさせられた。分かりやすいといえば分かりやすいんだけど、なまじ現実の会社を連想させる舞台設定だけに、このしつこいまでの「善対悪」描写に、なんか作者の意図を感じてしまうのだ。それはアフリカ編の時から薄々感じられていたのだけど、この会長室編に特に顕著だった。もうちょっと、その辺の表現を淡々としたものにしてくれると、個人的には良かったと思うのだが・・・
 御巣鷹山編でかなり感慨深いものがあっただけに、この会長室編の出来というのがちょっと残念な作品だった。