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| この小説は、14世紀の英仏百年戦争で活躍したフランス大元帥、ベルトラン・デュ・ゲクランが主人公になっている。英仏百年戦争といえば、その終結に多大な影響を与えた聖女・ジャンヌダルクが有名だ。というか、ジャンヌダルクが幕を引いた戦争として有名なのが百年戦争、ということになるんだろう。かくいう自分も、この小説を読むまでは、ジャンヌダルク以外の事柄については、まったく知識がなかった。 したがって、デュ・ゲクランについても、何をなした人物なのか、まったく知らなかった。正直言えば、購入時も表紙買いに近いものだったので、物語序盤を読んでいる間は、ゲクランのあまりの荒唐無稽っぷりに、彼は想像上の人物なんじゃないか、と思っていたほど。 しかし、だからこそ、この小説を楽しめたのかも知れない。それは「こんな人物がフランスに存在したのか!」という新鮮な衝撃だった。 デュ・ゲクランは、当地ではジャンヌダルクと並び賞せられるほどの人物で、ジャンヌが戦争末期の英雄(ヒロイン)とするなら、デュ・ゲクランは戦争前期の英雄になるらしい。しかも、その軍功は、ジャンヌとは比べ物にならない。領土の3割をイギリスに占領されたフランスにあって、デュ・ゲクランは、数々の武功を上げ、ほぼ完全に占領されていた領土を回復してしまう。しかも、彼は地方の貧乏貴族の出で、家の格式が出世にバリバリに影響していた当時にあって、社会の底辺からフランス大元帥まで上り詰めてしまった、異例の大出世を成し遂げているのだ。その生き様は、まるでフランス版「太閤記」のようだ。 この小説では、デュ・ゲクランは、こと戦争については天才的な頭脳を発揮するが、普段の生活は、まるで幼児そのもの、というちょっと特異なキャラクターで描かれている。どこまでが本当なのかはわからないが、一介の貧乏貴族が成り上がる素地があるとすれば、こういう憎めないキャラクターの持ち主でしかありえなかったのだろうな、という妙な説得力はある。作者の筆力の賜物だろうか、デュ・ゲクランのきわめて幼稚な数々の奇行も、常になんともいえない愛らしさに包まれており、きわめて強烈な印象を読者に与えているのだ。 そして、その脇を固める登場人物たちも、それぞれ個性的なキャラクターの持ち主である。「家長」の地位を奪われた弟・オリヴィエ、ゲクランのブレーン・エマヌエル、ゲクランを見出し、ゲクランに見出された賢王シャルル2世、イングランドの鉄人チャンドス、そしてブルターニュの好敵手グライー。彼らもまた、デュ・ゲクランという巨星に引き寄せられ、様々な運命をたどっていく。彼らも、主人公の強烈さに負けず、その時代を生きた人間として、丁寧に描きこまれている。 大戦乱時代の欧州という壮大な舞台、個性的な登場人物、そして重厚でありながら、軽快なテンポで進む物語。まさに大作というにふさわしい陣容をそろえた大河小説だといえるだろう。 |